ふたたび瀬戸内へ―(犬島散策)

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三分一博志《犬島製錬所美術館》。 太陽熱や地熱、御影石、カラミ煉瓦、近代化産業遺産、地形など、島既存の素材を積極的に活用し自然への配慮を重視した建築。煙突は、天然の空気冷暖に活用され館内を安定した空気環境に保っている。
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犬島チケットセンター(黒い建物)と製錬所美術館との間を結ぶ広々とした海沿いのプロームナード、堰堤のフチは島で 採れる犬島みかげを列ね、明快にデザインされている。
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美術館へのゲイトを入ると、黒々としたカラミ煉瓦の壁と床で構成されたスペースが、来場者を迎えてくれる。重厚でやや荒涼とした雰囲気が古い城塞を思わせる。
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《近代化産業遺産》のエリアにある銅スラグ保管庫跡。迷路のような壁の連なりが興趣をそそる。壁の間に自生した木々が味わいを深め、遺構は強い存在感を放っていた。
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《近代化産業遺産》のエリア内にある製錬用の発電所建物の遺構。月日がつくる深みも加え、アート的に見ても逸品といえそう。こんな作品はなかなか創れない。
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美術館の敷地入口ゲイトにある90cm角ほどのサイン板。鉄板製で赤錆に仕上げてある。
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銅製錬の副産物であったカラミ煉瓦。高熱と銅分がつくるマチエールと色がなんとも魅力的で随所に活かされている。

秋会期の最終日2日間、ふたたび瀬戸内国際芸術祭へ行ってきました。3年に一度の芸術祭最終日を名残り惜しむかのように来訪者も多く会場には活気が感じられ、この催しが新たな交流を育むきっかけになる可能性を想わせるものでした。そして祭りの後、島々がどんな様子になるのか、どんな効果が生まれているのかを見てみたい気にさせられました。聞くところによると、瀬戸内国際芸術祭関連地域で閉校していた学校が再開された所もあるようで、まことに喜ばしいことだと思います。

犬島、宇野、豊島と回りましたが、今回はその内で印象に残った「犬島」について書きます。犬島は周囲3.6kmのとても小さな島ですが、400年ほど前から大阪城などの石垣に使われた良質な花崗岩(犬島みかげ)を産する島で、最盛期には4000人の石工が働いていたらしく、また、たとえ10年間ではあっても、1900年代の初頭に操業していた大規模な銅製錬所でも多くの人々が働いていたと思われ、集落の家屋の数やたたずまいには、今の島の人口が50人弱ということからは想像できない風情があり、小さくとも由緒正しい島という感じで往時がしのばれました。

「犬島製錬所美術館」は、そんな銅製錬所遺構を保存し再生した美術館で、三分一博志(Hiroshi Sambuichi)の建築は、自然エネルギーの活用ほか環境に負荷を与えないポリシーで造られ、遺構の景観になじむ節度と感性が感じられる設計で好感がもてました。撮影禁止でここでは紹介できなかったのですが、柳幸典(Yukinori Yanagi)の恒久作品のアートワークもこの建築との連携感があり、遺構・建築・アート・環境のコラボが心地よい空間を創っています。訪れた時間はあいにくの小雨まじりの天候。しかしその空模様とここの佇まいが非常にマッチしていたのですが、おそらく快晴の青空にも似合うと思われ、さすが環境との一体をテーマにしただけのことはあると感じたのは思い過ぎでしょうか。

美術館に隣接する「近代化産業遺産」のエリアは、広い敷地に散在する遺構の形状が興味深く、また何ともいえないノスタルジーを感じさせるもので、なぜかアランドロンとリノバンチェラ主演のフランス映画「冒険者たち」に出てくる海の中の古い要塞を思い浮かべてしまいました。この銅製錬所が閉鎖されてから90年以上が経過するため、保管庫などの構造物の間を木々が埋める様も味わい深く、それも相まってこの犬島製錬所美術館が、地域の再創造モデルとして注目される所以であろうと思われます。

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名和晃平《F邸/Biota》。 動植物をイメージさせる多様な形と質感のオブジェを、民家を再生したギャラリー全体の大きな空間にダイナミックに展示した作品。
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浅井祐介《石職人の家跡/太古の声を聴くように、昨日の声を聴く》。 集落内や島内から集めた石や梁を石職人の家跡地に配置、そこに生命感のある動植物を描いた作品。
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妹島和世《中の谷東屋》。島内のアート巡りの休憩所として活用。チェアに座って音や声を出すと、ソフトで円やかな反響音が身体を包み込むような感覚が味わえる。
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荒神明香《S邸/コンタクトレンズ》。透明アクリルの壁が連なるギャラリーに設置。大小無数の円形レンズを透して周りの風景を取り込み、視覚の多様性を見せてくれる作品。
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荒神明香《A邸/リフレクトゥ》。 色鮮やかな造花の花びらを組み合せ、透明アクリルのリング状ギャラリーに展示した作品。周辺景色との響き合いが少し刺激的過ぎ?
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前田征紀《I邸/Universal Reception》。 光をキーワードにした水・音・植物の3要素によるインスタレーションの内、庭で展開される植物と幾何学立体による作品。
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〈島の風景〉
《山神社》。かつて石の産地として栄えた犬島で、石工の守り神として信仰された神社。
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ゆるやかな坂がつながる集落内の路。のんびり歩くと心がなごむような雰囲気がある。
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地下まで掘りすすめた石切り場の跡が池になったもの。あちこちにそんな池がある。
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芸術祭の正式参加作品ではないが、一般フリーの作品などもある。レベルを別にすれば島を活気づける面では、それもよいのかも…。

犬島製錬所美術館エリアを出て、島の中心集落へ向かいます。ここで展開されている犬島「家プロジェクト」(アートディレクター:長谷川祐子/建築:妹島和世)では、素材のリノベーションはあるものの、建築はすべて新造イメージで、旧家屋をそのままギャラリーに利用したものはなく、また、アルカディア(桃源郷)をテーマに制作されたというアートも充分に現代的であるのですが、島の風景や暮らしと一体になるように展開され、ほどよく島の風光に溶け込んでいました。

《中の谷東屋》と名付けられた休憩所で休んでいると、通りがかった94歳のおばあちゃんから声をかけられました。現在はこの島ではなく高松在住らしいのですが、しばしば来島して、この集落にある築250年の家屋を一人で守っておられるそうです。とても元気で往年のモダンガールという感じの方でしたが、「若いころは一人で満州にも行ってきた」などと、いろいろなお話を親しく交わし、「コーヒーを飲みにいらっしゃい」とも云っていただきました。この島が芸術祭の舞台になっていることを喜んでおられるようで「福武さんには感謝している」と真顔でおっしゃたのが印象的でした。

小さな島という隔絶された環境、まとまり良く伝統も感じられる島の印象などから、桃源郷を制作テーマにした意図が頷けるような好感の持てる島。犬島がそんな良いところを温存しながら、新たに活性化することを期待したいと思います。